【ジョジョ第4部】キラークイーン第3の爆弾「バイツァ・ダスト」徹底考察
『ジョジョの奇妙な冒険』単行本45-47巻(Part4 ダイヤモンドは砕けない)に登場するスタンド能力「バイツァ・ダスト」について解説してみたい(【警告】これより先、ネタバレあり)。
目次
「バイツァ・ダスト」とは吉良吉影のスタンド「キラークイーン」のスタンド能力(第3の爆弾)の名称である。このスタンド能力は他と比較してやや複雑な様相を呈している。例えば、時間が1時間戻るという現象。この現象は二つのシチュエーションで発生する。一つは能力の「発現」の際に。もう一つは、この能力の一つの「作用」が起こる際に。
以下、非常に長い文章となるが、この能力の付与、発現、三つの作用、そしてその意味と目的について、一つずつ考察していきたい。
能力付与:吉影の絶望と矢の意志
能力が付与された原因 |
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自身が希望する「平穏な生活」を送ることができなくなるという状況に絶望した吉良吉影を、矢が「勝手に」(矢の意志で)貫いた |
「吉良吉影は静かに暮らしたい」。平穏な生活を望む吉影は、「彼が川尻浩作ではないということを知った川尻早人」を感情にまかせて爆殺してしまう。しかし吉影は「岸辺露伴らが翌日川尻家を訪れる」ということを父吉良吉廣から聞かされ、早人の死因を事故に見せかけたところで露伴らに怪しまれるのは避けられない状況となってしまったことを悟る。
このことが意味しているのは、間もなく自らの正体が明かされ、この町を離れざるを得ないということ、つまり自らを追ってくる者を気にしながら生きていかなければならなくなってしまったという事実である。こうした事実の理解によって、吉影の絶望の度合いが極限に達したとき、父吉廣の持つ「矢」が吉影の絶望に反応し、矢の意志によって「勝手に」吉影を貫く*1(第5部の「レクイエム」を思い出させる*2)。
矢はスタンドの素質のある者を指し示すという意志的な性質を元々有している。既にスタンド使いである吉影が改めて矢に貫かれたのは、彼の「極限に達した絶望」が新たなスタンド能力の素質となり、それに反応した矢が、絶望のあまりの強大さゆえに彼を指し示すだけにとどまらなかったからではないだろうか。それゆえ矢は「貫く」という行動を起こしたのではないだろうか*3。
バイツァ・ダスト発現の条件
発現条件 |
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ある一定の度合いを超えて絶望した吉影が、スタンド使いではない人間を、自身のスタンド「キラークイーン」の爆弾化能力によって爆破する |
単行本第46巻「クレイジー・Dは砕けない その⑨」において、吉影は以下のように語った後、救急隊員を爆破し、移り変わった場面でバイツァ・ダストの発現を認めている。
来るか!承太郎……
『バイツァ・ダスト』はおまえに出会いたくない「一心」で発現した能力だ!……………
(中略)このわたしをもっと追いつめるがいい!
その限界の「ギリギリさ」が再び きっと!!『バイツァ・ダスト』を発現させるのだッ!
(第46巻、pp.182-183)
発現は、矢の貫通による能力付与と同時?
しかし、早人に対して発現した際は、矢に貫かれた後、既に爆破によって死んでしまっている早人を再び爆破することによって発現させたのではなく、矢に貫かれると同時に、こちらも「勝手に」発現したのではないだろうか。
矢に貫かれた後、何らかの方法で新しい能力を確認し、いよいよそれを発現させようという段階にあっては、絶望の度合いはそれが極限に達した瞬間と比べるとかなり落ち着いてしまっているに違いない。つまりその場合、絶望の不足によって、既にバイツァ・ダストを発現することができなくなっていると考えられる。
テレビアニメ版(『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』第35話)では、吉影は矢に貫かれた直後、一瞬で暗闇に吸い込まれていく。この描写は時間の移動を表現したものではないだろうか。
それゆえ、作中の説明に拠ると、バイツァ・ダスト発現の条件は「極限まで絶望した吉影がスタンド使いではない人間を爆破する」ということであるが、矢に貫かれた直後の発現に関しては、上記で考察されているような理由によるものであると推測したい。つまり、実際に起こった発現は(実際にはバイツァ・ダストは一度しか発現しなかった)能力の付与とほぼ「同時」であり、矢は吉影を守る新たな能力を彼に付与すると同時に発現させたと。
バイツァ・ダスト発現による変化
発現による変化 |
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時間が1時間戻る。そしてこの世で吉影のみがこの1時間の記憶を保持している。それと同時にキラークイーンは吉影の元を離れ、爆破された「スタンド使いではない人間」に取り憑く(爆破された「スタンド使いではない人間」は、1時間前の状態に戻るので生きている) |
実際には失敗していたが、もし吉影が救急隊員に対するバイツァ・ダストの発現に成功していたら、時間は1時間戻り、キラークイーンは救急隊員に取り憑いていたということになる。あるいは、先程のわたしの仮説に従うならば、吉影が矢に貫かれた直後に限っては、勝手に時間が1時間戻り、キラークイーンが早人に取り憑いたということになるだろう。
吉影の強大な絶望に反応した「矢の意志」が、「吉影の意志」を超えて彼の中に作用し、この能力を使用して彼に平穏な生活をもたらすために最もふさわしい人物として早人を選択した。そんなストーリーを思い描いてみるのもいいかもしれない。
発現前の記憶を持つのは誰か?
「この世で吉影のみがこの1時間の記憶を保持している」。このことは、救急隊員を爆破した吉影が、移り変わった場面でバイツァ・ダストの発現を認めているということから理解される。
吉影が矢に貫かれた翌朝、昨晩一度自分が死んだということを早人は覚えていない。吉影の父吉廣もまた、その驚き様から推察するに、第3の能力のことはじめて知ったのは、翌朝吉影からそのことを聞かされたときであるように見受けられる(p.25)*4。
さて、問題は(よく取り沙汰される問いであるが)「なぜ早人は生きているのか」ということである。
この理由を求めるためには、次項のバイツァ・ダストの「作用」と合わせて考察してみる必要がある。バイツァ・ダストの「発現」と「作用(作動)」における運命の扱いはおそらく異なっている。ある意味で、「発現において瞬間移動する前の1時間」の運命は、発現によって「消し去られている」ようにも感じられるのだ。
第1の作用:運命の固定
第1の作用:運命の固定 |
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バイツァ・ダスト発現後に起こる出来事をある程度運命として決定(固定)する(特に事物の「破壊」について)。後述する第3の作用によって時間が1時間戻ったとしても、運命は既に決定されているため、同じ出来事が繰り返される |
スタンド能力「バイツァ・ダスト」は、発現中つねに運命を固定し続けている。運命が固定されるのは、バイツァ・ダストの「発現から解除までの間」である。このことが意味しているのは、「この能力が発現するまで、運命は固定されない」ということだ。運命が固定されるのはあくまでも能力が発現した「後」であり、発現「前」に起きた「早人が爆破されたという出来事」は運命として固定されることはない。
なぜ川尻早人は生きているのか?
吉影が矢に貫かれ、能力が付与され、それが発現したのは、早人の爆死から約10分程度後のことであり、発現の1時間前には早人はまだ脱衣所に足を踏み入れてもいなかっただろう。テレビアニメ版(『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』第34話‐第35話)によると、各出来事が起きたのは以下の時刻であると推測される。
- 18:07頃:早人、吉影の殺人行為を目撃し、現場を立ち去る
- 20:37頃:早人、湯船に浸かっている
- 20:41から20:47の間:吉影、早人を殺害
- 20:52頃:矢が吉影の頭部を貫き、スタンド能力「バイツァ・ダスト」が吉影に付与され、発現する*5
能力の発現によって、時間は19時52分に戻るのだが、このとき時間が戻る前の19時52分から20時52分までの記憶を有しているのは吉影ただ一人である。つまり、吉影のみがこの1時間の記憶にもとづいて「意志」し、「行動」することができる。
さらに、この1時間の運命は固定されておらず(能力が発現する前であるため)、吉影が再び早人の殺害を「意志」し「行動」しない限り、早人が死ぬことはない。それゆえ、この能力の発現によって、吉影が早人を殺害したという事実、吉影に絶望をもたらしたこの事実は、完全に無かったことになってしまう。先程、運命が「消し去られている」ように感じると述べたのは、こうしたことにもとづいている。
「傾向」と「運命」の違い
杉本鈴美の指摘によって早人の姓が(自分たちがマークしていた川尻浩作と同じ)川尻であることを岸辺露伴と広瀬康一が意識したのは少なくとも18時04分以前のことだ。彼らはおそらくそのとき、翌朝の待ち合わせの時刻と場所(「8時半にペプシの看板のある交差点で」)を決定したのだろう。そしてバイツァ・ダスト発現前の20時50分に、康一はこれらの事柄を知らせるために仗助の元を訪れている。
バイツァ・ダストの発現によって20時52分から19時52分に戻った時点で、吉影以外はその後の1時間の記憶を持っていない。しかし、19時52分より「以前」の記憶はすべての者において保持されており、人々はその記憶にもとづいてその後の時間を過ごすこととなる。
運命が固定されていなくても、7月15日(木)19時52分までの記憶を持った康一は、時間が戻る前と同じように、20時50分ちょうどではないかもしれないが、その日のうちに東方仗助の元を訪れ、その後空条承太郎に連絡する(仗助は虹村億泰に連絡する)はずである。
このことから理解されるように、記憶は人物の(あるいは生物の)その後の行動の「傾向」を形成する*6。
ところが発現後の吉影のように、19時52分から20時52分の記憶を保ったまま19時52分に戻ることができた場合、彼はその記憶をもとに意志することが可能となる。それゆえ早人の殺害を避けることができたのだ。もし19時52分から20時52分の記憶を「保たずに」19時52分に戻ったならば、彼はおそらく再び早人を殺害していただろう。
さて、第1の「作用」としての「運命の固定」に話を戻す前に、作用の順序が前後してしまうが、「時間を戻す」第3の作用のことを予め確認しておきたい。
第3の作用:1時間前への時間移動
第3の作用:1時間前への時間移動 |
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バイツァ・ダスト発現による時間移動とは異なり、第3の作用による時間移動においては運命が消し去られることはない。この1時間の運命は既に決定されており、1時間前に戻ると再び同じ運命、同じ出来事が繰り返される |
一度破壊されたものは必ず破壊される
一度起こった出来事は時間が戻っても再び起こるよう決定されており、特に事物の「破壊」という事象は、バイツァ・ダストが解除されない限り、「第3の作用によって時間が戻れば」必ず再現される。
「第3の作用によって時間が戻る」前の1時間の記憶を有しているのは、「キラークイーンに取り憑かれている者」のみであり、作中においては早人のみである。つまり早人のみが、「時間が戻る前の1時間の記憶にもとづいて」意志し、行動することができる。
しかし、キラークイーンに取り憑かれた早人は、3回目の7時30分から8時30分を、2回目とは異なる記憶によって意志と行動を変化させて過ごしたにもかかわらず、露伴の爆死を阻止することができなかった*7。第1の作用によって運命が固定されてしまう以上、早人がどのように意志し、行動しようが、それによって吉影にバイツァ・ダストを解除させない限り、事物の破壊は必ず再現される。
おまえはさっきのウェッジウッドのポットを自分の意志で割ったと思っているようだが…それは違う……
『前の朝』に割れたものは必ず割れる事になっていたのだ…
なるべくしてなる!それが「運命」というものなのだ!
おまえが『前の朝』「本」にされたのなら必ず「本」になるッ!(p.85)
『キラークイーン バイツァ・ダスト』の中では一度起こった「運命」というものは必ず起こるッ!一度破壊されているものは必ず破壊されるッ!(p.87)
作中1回目の朝は、1回目ではない?
単行本45巻を一読して理解されるように、第3の作用によって時間が戻ってから繰り返されるのは、「全く同じ」出来事ではなく、「ほぼ同じ」出来事である。例えば受話器を取る人物が毎回違ったり、しのぶにキスをする人物が違ったり、キスをしない場合があったり、カップとソーサーが割れる場所、あるいはコーヒーがこぼれる場所が毎回違ったりする。
これはもちろん、早人の記憶が毎回異なっていることによって、その行動が毎回異なっているからである。早人が各回の7時30分をどのように迎え、はじめるかを確認しておこう。
- 1回目…7時30分以前の記憶しか持たない
- 2回目…7時30分以前の記憶しか持たない
- 3回目…7時30分以前の記憶と、2回目の7時30分から8時30分までの記憶を持つ
- 4回目(7時36分から)…7時30分以前の記憶と、2回目の7時30分から8時30分までの記憶と、3回目の7時30分から8時36分までの記憶を持つ
ちなみに、1回目は作中描写されていない。作中の最初の朝は、一度時間が戻った後の2回目を描いたものである。と言うのも、作中の最初の朝、岸辺露伴が自身のスタンド能力「ヘブンズドアー」によって早人が「体験した」ことを読むと、露伴がこれから経験することが予めそこに書き込まれていたからだ(pp.42-54)。
つまり、作中最初の朝は、早人が既に一度経験したことのある朝である。しかしこの2回目の朝においては、早人は1回目の朝のことを記憶していなかった。あるいは、おそらく記憶してはいたのだろうが、その記憶を思い起こすことができなかった。2回目(作中1回目)の朝に露伴が爆死するまでの経過は以下。
時刻 | BD発現前 | BD発現後 (作中描写無し) |
2周目の朝 |
---|---|---|---|
18:05 | 早人、 吉影の殺人を目撃 |
||
19:52 | ↓ | KQ、 早人に憑依 |
|
20:45 | 吉影、 早人を殺害 |
↓ | |
20:52 | BD発現 | ↓ | |
7:30 | ↓ | 起床 | |
7:36 | しのぶ、 早人の部屋へ |
しのぶ、早人の部屋へ (p.23)*8 |
|
8:24 | 早人、 露伴に会う |
早人、露伴に会う (p.37) |
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8:29 | 露伴、 攻撃される |
露伴、攻撃される (p.58) |
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8:30 | 露伴、爆死 | 露伴、爆死(p.62) (1回目より僅かに 早い時刻に) |
バイツァ・ダストを打ち破る
新たに追加された記憶を思い起こすことによって、早人の意志と行動は毎回変化していく。早人の行動の変化によって、この変化に反応しなければならなくなった人物の行動も同様に変化する(だからこそ早人は「賭け」ることができた*9)。
だとしても、バイツァ・ダストによって固定された運命は決して変化することがない。何らかの原因によって一度破壊されたものは、2回目にはその原因が無くても、例えば別の原因で、あるいは何の原因もなく、すなわち何の脈絡もなく破壊され得るのである*10 *11。
バイツァ・ダストによる運命の固定は、例えば誰かが川尻しのぶにキスをしようとするということや、早人が(吉影に)帽子を被せられるということについても適用される。ただ一人、時間が戻る前の記憶を保持している早人でさえも、意図してカップとソーサーを割ったり、しのぶにキスをしたりと、幾つかの行動は運命の固定に従わされていると看做すことができる。
しかし、この「運命が固定された時空間」の中で、早人の意志と行動には、「固定された運命が繰り返される時刻」を変化させるという可能性や、何かを持ち運ぶという自由が認められている。彼には、「賭ける」ことが認められている。「賭け」とは同時に、バイツァ・ダストを打ち破ることができるかどうかの「賭け」でもある。
第2の作用:攻撃
第2の作用:攻撃 |
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キラークイーンは、「姿を現したキラークイーンを視界に入れた者」の目の中に瞬間的に移動し、体内を攻撃し、最終的にその者を爆破する |
バイツァ・ダストを作動させるためには、「スタンド使いではない人間」に取り憑いているキラークイーンが、攻撃対象の視界の中にその姿を現さなければならない。
キラークイーンが攻撃対象の視界に現れる条件 |
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作中でバイツァ・ダストの攻撃対象となるのはすべてスタンド使いであるが、スタンド使いではない者が上記の条件の一つを満たすとき、その者は攻撃対象となりうるのだろうか。こうした疑問が生じる理由のひとつとして、スタンド使いでない者にはキラークイーンが見えないということが挙げられる。
BDのKQはスタンド使いのみを攻撃するのか?
バイツァ・ダストにおけるキラークイーンは、自分を視界に入れた者の目の中に移動するが、このような能力は間接的に、例えば第3部に登場するJ・ガイルのスタンド「ハングドマン」を思い出させる。ハングドマンは光を反射するものの間を移動するスタンドであるが、スタンドが見えない人々の目の中にも移動することができる(目は光を反射するため)。
そして何よりも、「吉影が川尻浩作として生活しているということが明かされてしまうことを阻止する」というこのスタンドの目的を考えるならば、上記の条件を満たす者がスタンド使いであるかどうかということは問題にはならないだろう。
キラークイーンが攻撃対象の視界に現れる条件とは無関係に、被憑依者に危害が加えられようとすると(他者によるものであっても、被憑依者本人によるものであっても)、それを阻止するためにキラークイーンが現れる。
この場合、被憑依者が吉影のことを誰かに伝えたわけでも、誰かが被憑依者に吉影のことを質問したわけでもない。それゆえ、その誰かがスタンド使いでなければ、視界に入っていたとしてもキラークイーンは見えず、吉影のことは意識されないため、おそらく攻撃されることはないだろう。しかしその誰かがスタンド使いであれば、吉影のことを伝えられたり尋ねたりしなくても、キラークイーンの現れ自体が吉影に関する情報の一つとなってしまうため、それを視界に入れた時点で攻撃対象であると判断されるに違いない。
バイツァ・ダストの目的
目的 |
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吉良吉影が川尻浩作として生活しているということが明かされてしまうことを阻止する(平穏な生活を送ることができるように) |
早人を殺したことによって窮地に追いやられてしまったように見える吉影であるが、実際には早人を殺す前から既に仗助たちによって追い詰められていた。時間を戻して早人を殺したという事実が消えたところで、近いうちに川尻浩作の正体が吉影であるということは暴かれてしまうだろう。
「バイツァ・ダスト」は、「静かに暮らしたい」という希望が完全に打ち砕かれ、絶望のどん底に突き落とされた吉影に身についた能力だ。吉影の絶望に矢が反応し、この絶望が再び訪れないよう世界を修正する能力を発現させるべく吉影を貫いたのである。吉影の絶望の大きさが矢を反応させたのだと言ってもいいだろう。
キラークイーンの三つの能力が解説された第45巻「アナザーワン バイツァ・ダスト その⑩」の扉絵の中で、この能力は以下のように記されている。
第3の能力『バイツァ・ダスト』は こいつ(キラークイーン)が「人」にとりついて発現する
自分の正体を他人に知られたくないという願いから成長した能力(p.187)
三つの作用はすべて吉影の正体隠蔽に従事する
紹介してきたバイツァ・ダストの三つの作用はすべて、「自分の正体を他人に知られないため」のものである。
- 自分の正体を知ろうとする者、あるいは知ってしまった者を攻撃、爆破し、
- この出来事を運命として固定し、
- 1時間前に戻し、同じ者の爆破を自動的に再現する。
もしかすると、なぜ時間を戻す必要があるのか、その者が爆破されたのであれば、遺体という物的証拠は消滅してしまうから、時間を戻す必要はないのではないか、という疑問が生じるかもしれない。しかしその場合依然として、例えば露伴の爆破を例に取ると、早人と露伴が出会っているところを目撃する者が存在する可能性が残る。
さらに、条件が整い次第すぐに攻撃、爆破は実行されてしまうので、もしもそれが人混みの中であれば、多くの人がその現場を目撃してしまう。早人のそばにいる人間が爆死し、多くの人がその現場を目撃したとなると、もう吉影は安泰ではいられない。それゆえ、時間を戻すという第3の作用は必要不可欠なものとなるのだ。
わたしの「正体」だけを消して時は元どおりになる!(p.85)
そして…早人
おまえが『露伴』に会ったという事実さえも消えて『朝』は元どおりにすぎていくのだ(p.94)
「運命を変える」二人の戦い
「バイツァ・ダスト」は、自分の正体が明かされてしまうという「運命を変える」ため、吉影に身についた能力である。「運命を変える」という大前提のために、その都度の「運命を固定する」のだ。しかし早人は、固定された「運命を変える」ために行動する。
自らの悲劇的な運命を変えようとした者(吉影)は、他の者(早人)に悲劇的な運命をもたらすが、他の者は自らの悲劇的な運命を変えようとするのである。この話は、吉影と早人が、どのようにしてそれぞれの自身の運命に勝とうとしたかということに関する記録として読むことができる。
この分析は無意味な分析だ。なぜなら正解を探し求めているわけではないからだ。それゆえ「解釈の正しさ」を主張するものではない。様々な解釈の一つであるに過ぎない。解釈の遊戯だ。こういうのも作品を楽しむということの一つとして許してもらえると幸いだ。
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*1:既に「スタンド使い」となっている者を矢が貫くのは、本シリーズにおいて唯一の事例である。
*2:「レクイエム」は、「スタンド使い」ではなく、「スタンド」を矢が貫くことによって付与され、発現する。
*3:おそらくは、矢が反応したのは絶望に対してだけではない。矢が貫く直前に、吉影の爪には「かつ」の形に裂け目が入る(「かつ」は「勝つ」を意味するものだと考えられる)のだが、このことは、吉影が極限の絶望の中でもその絶望を上回ろうとする意志を持っていたということを意味している。つまり矢は単に絶望に反応したのではなく、絶望と希望がせめぎ合う力に、あるいは運命とそれを打ち破ろうとする意志との強大な摩擦力に反応したのだと推測される。
*4:テレビアニメ版(『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』第35話)でも、時間が戻った後再び川尻家の脱衣所を訪れた吉廣の様子、あるいは翌朝の吉廣の「わからん 吉影 何があったんじゃ ゆうべから何かおかしい」という台詞は、昨晩矢に貫かれた吉影を覚えている者の言動としては不自然である。
*5:矢に貫かれた吉影が暗闇へと吸い込まれていくのは「7月15日(木)20時48分」と表示されてから約4分後のことである。
*6:同様に、ある時点における物質の状態は、その物質のその後のあり方の傾向を形成する。
*7:2回目は1回目の記憶がはっきりしていなかったため、1回目と同じことが起きた。
*8:早人「昨日はよく眠れなかった………」(p.24)
*9:3回目の朝に仗助が寝坊したと言っていた(p.99)ことを覚えていた早人は、4回目の朝、東方家に電話し、仗助を3回目の朝よりも早く待ち合わせ場所に来させることに成功した(p.172)。
*10:4回目の朝にカップの取っ手が割れたのは陶器の疲労などの原因があってそうなったのではなく、原因無しに割れたのだと思われる(p.135)。
*11:3回目の朝、キラークイーンの出現無しに、露伴は爆死してしまう。「『岸辺露伴』か…………見ろ……彼は今…自分がなぜ死んで行くのかさえも気づいていない……」(p.89)。