F1を目指す17歳 宮田莉朋と阪口晴南の2016年最終章

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さて、この戦いがどういう結末を迎えたのか。高校生を含む若い選手たちが参加するモータースポーツフォーミュラカーの下位カテゴリーFIA-F4選手権で、二人の高校生がチャンピオン争いをしている、というのが先日のこの記事の概略だ。

宮田莉朋が王座に輝く

終戦を前に、宮田莉朋が阪口晴南を4ポイントリードしているという状態で、最終戦のスタート位置は宮田が27番手、阪口が35番手となっている。10位までがポイント圏内なので、阪口が5ポイント以上獲得するには最低でも7位(6ポイント)に入らなければならない、つまり28台抜かなければならないということで、あまり現実的ではない。つまり、レース前の段階で、宮田のチャンピオン獲得はほぼ確定したようなものだった。

そして昨日(2016年11月13日)国内FIA-F4の最終戦が行われ、宮田がチャンピオンを獲得したのである。

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宮田、阪口ともに後方から見事な追走劇を見せ、宮田は11位、阪口は15位でレースを終えた。チャンピオン争いはほぼ決着していたにもかかわらず、両者ともに「高校生らしく」というか、気力十分の走りを見せたのだった。

宮田はつねに安定した速さを見せ、8月にこのカテゴリー史上最年少での優勝を果たすなど、その強さを十分に発揮したシーズンであった。強力なチームメートである小高との勝負にも勝ち、獲るべき者が獲ったチャンピオンだったと言えるだろう。おめでとう!です。

チャンピオンへの分かれ道:レイン・オア・ドライ

振り返ってみると、宮田のチャンピオンが確実となったのは、最後の3連戦の初戦だったような気がする。

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前日の雨の影響が残り、わずかにライン上は乾き始めているものの、それ以外の部分は黒く湿っているという微妙なコンディションでの戦いとなったことからウェット宣言が出される

ポールシッターの大湯都史樹、予選2番手の宮田莉朋とフロントロウの2台に加え、予選4番手の大滝拓也、小高一斗、ファン・ドユン、川端伸太朗、橋本陸など11台がレインタイヤを装着、残りはドライタイヤという状況でレッドシグナル消灯となった

レインタイヤとドライタイヤのクロスポイントはどこか

雨が降っているわけではないが、路面はまだ濡れていて、レーシングライン上は乾き始めているものの乾ききってはいないという状態。各陣営は、レインタイヤを装着するか、ドライタイヤを装着するかという非常に難しい判断を迫られる。

スタート前の段階のまだ乾ききっていない路面状況では、レインタイヤのほうが速い。しかし時間が経つにつれ路面は乾いていき、車が走ることによってレーシングラインはさらに速く乾いていく。

レースはわずか12周、時間にすると30分にも満たない。序盤はレインタイヤのほうが有利であるのは間違いないが、路面が乾いてドライタイヤのほうが有利になるのはどの段階なのか、というファクターがこのレースを左右する。レインタイヤが苦しくなるのはレース中盤なのか、終盤なのか、あるいは最後までレインタイヤ有利の状況が継続するのか。

レース中盤までにはドライタイヤが有利に転じる

3レースが残っているこの時点では、ランキング3位の大湯都史樹にもチャンピオン獲得の十分なチャンスがあった。宮田、阪口、大湯の選択は、宮田と大湯がレイン、阪口がドライ。

レースが始まると、やはりドライタイヤでの走行は厳しいものの、レインタイヤ装着のマシンに比べて大きく引き離されるということはなく、あと少し路面が乾けばドライタイヤが有利になるであろうことが見て取れた。

しかし2周目、スピンした他のマシンが阪口に接触し、阪口はコースアウト。早々にリタイアしてしまう。

4周目あたりからドライタイヤのペースがレインタイヤのペースを逆転し、レインタイヤ装着のマシンは徐々に順位を落としていく。最終的に大湯は13位、宮田は22位にとどまるのが精一杯だった。

「ベストラップ順位=最終戦のスタート順位」が語ること

このレースには、他のレースとは異なる特殊な役割が与えられていた。それは、このレースのベストラップの順番を、3連戦の最終レースのスターティンググリッド(スタート位置)の順番とする、ということだ。

例外的状況下における判断

スーパーGT選手権の前座レースであるFIA-F4選手権は、一度の週末に2レースを行うのが通常であるのだが、今年の春の熊本地震で中止となったレースを代替するために、一度の週末で3レースを行うことになった。そうした例外的な状況に対して、このようなスターティンググリッドの決定方法が採用されたのだ(「一度の週末に3レース」という状況は8月にもあったが、その時の天気は晴れだった)。

そしてレースでは、路面が乾いたため、当然ドライタイヤを装着したマシンのほうがベストラップは速い。阪口はスタートの1周しか走ることができなかったため、ベストタイム無しということになってしまった。宮田と阪口の最終戦のスタート位置が下位だったのは、こうした理由によっている。つまり、このレースの最終順位においても、ベストラップにおいても、ドライタイヤが正解だったのだ。

レース開始前の時点に立ち戻って考えてみると、レインタイヤのほうがドライタイヤより速いベストラップを記録するためには、レース終了まで路面が乾ききらない必要があった。

レース中の順位そのものは、後ろのマシンのほうが速くても、ブロックなどして(ブロックラインを取るなどして)抜かせないことは不可能ではない。しかし、ラップタイムそのものは、原則的には妨害することはできないのである。つまり、最後の1周までのあいだにドライタイヤが有利になりさえすれば、ドライタイヤ装着のマシンが最終戦のスタート順位の上位を占めることになり、そのことはスタート前の段階である程度予想できたことではなかったのだろうか。

とは言っても、わたしは現地にいたわけではないので、だから問いかけのかたちとった次第だ。

正解を選択した阪口の悲劇と宮田が築いた11ポイントの差

阪口は他のマシンに追突されたことによって、好結果が期待できたそのレースを失ってしまっただけではなく、最終戦のスターティンググリッドの前方のポジションを手に入れるための機会さえも奪われてしまったと言えるだろう。正しいタイヤを選択したにもかかわらず、彼は一つのレースで二つのレースを失ってしまったのだ。

だからと言ってわたしは、「追突されるという不運がなければ阪口がチャンピオンだった」と主張したいわけでは決してない。最後の3連戦に至るまでに宮田が阪口に対して築き上げた11ポイントの差を軽視してはならない。この11ポイントの差が宮田にチャンピオンをもたらしたのだと言っても過言ではない。つまり、「不運も幸運もある1シーズン」を通して勝利したのは宮田のほうだったということである。

敗者にも祝福を

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阪口はこのレースを「ショック」と表現している。

とはいえ、よく言われることだが、「これがレース」。レーシングドライバーはこのことを重々承知している。承知した上で、「ショック」だったのだ。次のレースでは初優勝を遂げ、この週末の好調を証明してみせた。おそらくは失意の中にいるのであろうが、それを走りに影響させることはなく、確実にやるべきことをしたのだった。

二人の次の戦いの場はおそらくF4の一つ上のカテゴリーである全日本F3選手権となるだろう。

阪口は今年F4とF3、同時にエントリーしていて、宮田に対して1年の経験というアドバンテージを有している。そしてF3は、F4と比較してチーム力の差がタイムに反映されやすいため、より上位のカテゴリーの特質に接近することになる。上位のカテゴリー、つまり直接的にF1の直下のカテゴリーであるGP2、あるいはF1そのものからの目にさらされるのだ。

いずれにしても二人の戦いを見ることができるのが幸せ。