【ジョジョ7部SBR】アクセル・RO「シビル・ウォー」における二つの段階
目次
「シビル・ウォー」とは、荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険 Part7 スティール・ボール・ラン』に登場するキャラクター「アクセル・RO」のスタンドの名称である。それぞれの名称の由来は以下のものであると推測される。
- アクセル・RO…ガンズ・アンド・ローゼズのボーカル「アクセル・ローズ」
- シビル・ウォー…ガンズ・アンド・ローゼズの楽曲『Civil War』
このスタンドが登場するのは、単行本においては15巻である。以下、単行本15巻に書き込まれていることのみに基づいて、本スタンドの分析を試みる。
シビル・ウォーの二つの段階
まず、最も重要な文章として、このスタンドについての要約を取り上げる。
- 過去に捨て去ってきた罪が支配する空間「シビル・ウォー」
- 相手が過去に捨ててきたものをすべて提示できる能力
- そして自分の過去の罪を相手におっかぶせて清める
(p.154)
シビル・ウォーとはスタンドの名であるとともに「空間」の名でもある。「能力」は、「相手が過去に捨ててきたものをすべて提示できる」ものであると説明されている。さらに、能力の後に補足されるようにして、「自分の過去の罪を相手におっかぶせて清める」ということが述べられている。
おそらくは、シビル・ウォーには二つの段階が存在し、それぞれの段階において、スタンドの作用が異なっているように思われる。
第一段階
二つの段階が存在すると仮定した場合、シビル・ウォーは、その第一段階において、「相手が過去に捨ててきたものをすべて提示」し、提示された「もの」によって相手を攻撃する。
具体的には、提示された「もの」は相手への物理的な接触を試み、接触すると相手の体内へ溶け込みながら侵入し、そこで破裂することによって生成される膜状のもので相手を包み込み、最終的にそれで相手を絞め殺すことを目的とする。
第二段階
スタンドの本体アクセル・ROは、相手に殺されると、自分の罪(過去、自らの行為によって犠牲となった人々)を相手に「おっかぶせる」。
そして、「殺す」ということは「捨てる」ということを意味する(p.138)。つまり、アクセル・ROを殺した者は、自らが捨てた(=殺した)ものとしてのアクセル・ROから攻撃を受けるだけでなく、彼がこれまでに殺して(=捨てて)きたすべての者(亡霊)たちからも攻撃されることになる(p.138, 144)。
アクセル・ROが殺されることによって、彼の罪のすべては、彼の元を去り、彼を殺した者へと移行する。それゆえ、アクセル・ROの罪は清められるのである。
蘇ったアクセル・ROが置かれる位相
そして、彼は清められることによって「蘇る」ことになる。
ではなぜ彼は蘇ることができたのか。おそらくそれは、過去の罪を清算するということ、あるいは覚悟を決めるということと関係している。これについては後に詳細を検討することにして、まずは蘇った者が置かれている位相を確認しておこう。
おまえがさっきわたしを殺して捨てたからわたしは「蘇れたんだ」
それが「シビル・ウォー」
わたしはおまえの「罪」の中にいる(p.181)
――アクセル・RO
わたしの自分のこの存在はもうすでにおまえの「罪」で護られている(p.180)
――アクセル・RO
これらの台詞から理解されるように、殺され、清められ(自分を殺したジョニィに自らの罪を被せ)、蘇ったアクセル・ROは、ジョニィの捨てたものの一つとして、ジョニィの罪の中にいる。
このことが意味しているのは、アクセル・ROはジョニィによって「捨てられたもの」としてジョニィの罪空間に所属しており、そこに所属していることによって護られている、ということである。つまり、シビル・ウォーの射程範囲内に位置している限り、ジョニィには、そこで生成される自らの罪空間内に現れる「これまでに自分が捨ててきたもの」を殺すことはどうやらできないらしいのである(蘇った後のアクセル・ROは頭部を撃ち抜かれるが、すぐに回復する)。
例えばホット・パンツの以下の台詞は、そうしたことを指しているのだと言えるだろう。
捨ててきたものからは絶対に逃れられない(p.64)
――ホット・パンツ
スタンド能力の産物をコントロールできない本体
殺され、清められ、蘇る。アクセル・ROは、これを以てシビル・ウォーの「完成」 と呼んでいる(p.141) 。「完成」以前が第一の段階であり、「完成」以後が第二の段階である。
しかし、アクセル・ROを殺したことで彼の罪を全て譲り受けたかたちとなったジョニィは、反対にアクセル・ROに殺されることによって第二の段階をひっくり返す。換言するならば、ジョニィは、元々アクセル・ROのものであった罪を再び彼の元へと返すことに成功する。
このスタンドの特徴的な点の一つに、第二段階の自らのスタンド能力によって、自らが攻撃されてしまうことがあり得る、ということが挙げられる。
殺されたアクセル・ROは、自分を殺した相手(ジョニィ)の罪の中に蘇り、アクセル・ROがこれまでに捨ててきたもの、彼の罪の犠牲者たち、つまり亡霊たちを実体化させ、それらによって相手を襲うのだが、蘇ったアクセル・RO自身がジョニィを殺した場合、ジョニィの罪がすべてアクセル・ROへと移行することによって、ジョニィは清められ、蘇ることができる。
そして、第二段階において、ジョニィの罪空間の中で実体化した亡霊たちは、実体化したままで今度はアクセル・ROの罪空間へと移行し、彼を襲うのである。つまり亡霊たち(アクセル・ROの罪の犠牲者たち)は、実体化した第二段階以降、それが彼のスタンド能力の産物であったとしても、既に彼自身がコントロールできるものではなくなっている。
シビル・ウォーの射程範囲
次に、シビル・ウォーの射程範囲について、詳しく見てみよう。
以下の台詞からは、通常のスタンドとは異なり、シビル・ウォーの射程範囲はスタンド本体からの距離に依拠するのではなく、アクセル・ROによって任意に固定されうるらしいということが推測される。
自分の「罪」をこの館のゴミの中に置いて来て
わたしは完全に「清め」られた(p.186)
――アクセル・RO
この館の「中」が君のスタンドの射程距離内
ぼくが館の「外」に出て行っておまえを仕留める事は可能なはず(p.204)
――ジョニィ・ジョースター
ジョニィが言うには、シビル・ウォーの射程は「館の中」に限られている。そしてアクセル・ROは自分の罪を館の中に置いてきたのだと言う。よって、シビル・ウォーによって発生する「罪の空間」は館の外にまで及ぶことはない。
しかし例外的に、「罪の中」にいると言われている(p.181)蘇った者は、館の外に出ることができる(「自分の罪をこの館のゴミの中に置いてきて」、「ぼくが館の外に出ていって」)。館を出たアクセル・ROが、「完全に」清められたと言ったのは、シビル・ウォーの射程範囲内(館の中)でジョニィを殺してしまうと、今ジョニィを襲っている自分の罪の犠牲者たちが次に自分に襲い掛かってくるということを認識しているためである。
ジョニィは決してそのことを知っていたわけではないが、イエス様(?)の導きによって(「迷ったら撃つな」、つまり、迷わないのなら…)、これまでの自分を葬り去るという覚悟を決め、その信念に従って行動した結果、蘇ることに成功した。ジョニィはこれまでの自分を葬り去ることによって、過去の罪を精算し、無罪の者として新たに生まれ変わったというわけだ。
「完全に」清められたと確信したはずのアクセル・ROは、ナイフを持ったその手を館の中に引きずり込まれ、ジョニィを殺してしまう。
第二段階で移行するのは捨てたものの「すべて」なのか
わたしは斧で襲いかかるそこの「アクセル」から君(ジョニィ)を助けた
正当なる防衛だよ
アクセルの君への攻撃を止めたんだ
だから彼を撃ってもこの館の「シビル・ウォー」の「罪」はわたしには移らない(p.210)
――ファニー・ヴァレンタイン
この台詞は、15巻の最終盤に登場したファニー・ヴァレンタインがアクセル・ROに致命傷を与えた後に語ったものである。
ファニーはさらに次のように語っている。
アクセル、もう少し死なないで
ジャイロとジョニィをまだ残っている「シビル・ウォー」でここに足どめしといてくれ(p.211)
――ファニー・ヴァレンタイン
実体化したアクセル・ROの罪の犠牲者たちは、現時点ではアクセル・ROの罪の中にいるためジョニィたちに襲いかかることはないが、ファニーはシビル・ウォーによってジョニィたちを足止めするように命じている。
つまり、ジョニィは蘇り、犠牲者たちをアクセル・ROへと移行させたのだが、それでもなお、シビル・ウォーが有効である限り、(アクセル・ROの)敵が過去に捨ててきたものを提示し、それによって敵を攻撃するという第一段階の能力は継続しているのだということが理解される。
ただし、これに限っては、ジョニィは既に無罪状態で蘇っており、過去の罪を持たないのだから、シビル・ウォーによって彼に提示されうるものはもはや何もないはずである。
筆者は先程、ジョニィがアクセル・ROに殺されることによって蘇った際、アクセル・ROがそうだったように、自らの罪のすべてを、自分を殺した相手の罪空間の中へと移行させた、と述べたが、それはあくまでも一つの解釈だった。
例えば、第二段階のシビル・ウォーにおいて移行するのは、あくまでもアクセル・ROの罪の「実体化した」犠牲者たちであり、ジョニィが殺されたとしても、ジョニィから移行するのはアクセル・ROによる犠牲者たち「のみ」で、ジョニィの過去の罪は移行せずにとどまる、という解釈も可能である。なぜなら、アクセル・ROの罪の犠牲者たちは、彼が殺されるまでは実体化することなく、スタンド能力の影響を受けないのだが、彼が殺されてからようやく実体化するという、第二段階に特有の存在であるからだ。
それゆえ、「殺され、清められ、蘇る」ことによって発動されるシビル・ウォーの第二段階は、アクセル・ROの実体化した亡霊たちのみを扱うのではないか、という推測が可能となる。
しかし、ジャイロがジョニィの眼差しから人間性までもを失う覚悟を感じ取らざるを得なかったという描写(p.195)から考えても、やはり第二段階で移行するのは、自らのものも含めたこれまで捨ててきたもの「すべて」であると看做すのが妥当であると思われる。その場合、シビル・ウォーによってジャイロを足止めすることはできても、どのようにしてジョニィを足止めするのかという疑問は依然として残っているのだが。
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